BLOG

はやくお迎えにきてください

施設に遊びに行くと母親はベッドで眠っていた。
昼食でお腹を満たしたのだろう、小さな鼾が聞こえる。
僕は脇に置いてある母親の車椅子に座り、テーブルに置いてある日記を手にした。

一年三ヶ月前の入院。ボケの兆候を感じたとき、
兄が提案した痴呆防止のための日記が四冊目となった。
最近は母親の日記というより見舞いに行った際の家族たちとの交換日記となっている。
最近のお気に入りは小学三年の姪が書いた似顔絵とメッセージが
何より嬉しいようで、行くたびにその絵を見せてくれる。


どれどれ。
昨日は何を書いたのかな。
ページを開く。
施設内での一つ二つの出来事の文字の後に
「はやくお迎えにきてください」の一文。
改行して「なんのために生きているのか…」。
突然心臓を殴られたようなショックの文字だった。


明日で94歳になる母親の寝顔をしばらく見つめていた。
40分後。気配に気づいたのか目を醒ました。
僕の姿を見るとリハビリが出来ると喜ぶ。
寝顔を見ながら考えていた。
今日は外に連れ出して気分転換をしよう。
 

「今日は散歩に行こうか」
「いいね、外は寒いの?」
「冬だから、それなりに」
「風邪は引きたくないね」

結局。散歩は取りやめとなった。
日記の文字とは裏腹の健康志向の母親の言葉にひとり笑った。