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中間管理職の見栄〈稽古場こぼれ話リポート〉

稽古が始まって三日目のことでした。
前日まで舞台本番を終えた寿里くんが合流したその日の夜、
親睦会があった。


「ええか、役者ちゅうのは体調管理も仕事なんやで」
最年長の鈴木健介氏が熱く語りはじめた。
二年前の「THE面接」本番前日に肺炎で降板せざるおえなくなった
西川俊介くんの話題になったのがキッカケだった。
「オレは毎晩R1を飲んでる。あれはいいで。あとルルな。
この二つは最強やで。たいがいの菌を殺してくれる。
この二つのおかげでオレは何年間も風邪をひいてない」
若者たちは「は、はい」と聞いていた。
中間管理職が新入社員相手に自慢話をしている、
そんな景色だった。



本日は稽古OFF日。
この数日間、稽古場には重たい咳が蔓延していた。
明らかに風邪の咳だ。
本日は各々で病院に行くことを約束した。



発端は寿里くんが持ち込んだ風邪菌だった。

舞台が続いてた彼はウチの現場に来た時には
相当に体力が落ちていて、喉の奥が痛かったらしい。
初めましての現場なので言い出すキッカケを探してる
ところに中間管理職から自己管理の話をされたことで
誰にも言えないまま稽古が続いた。



先日。西川俊介くんの誕生日を稽古中にお祝いをした。
帰り支度のときに鈴木氏が言った。
「お祝いしようや、みんなも行こう」
この頃、初めて経験する演出に誰もが必死で家に帰っても
やることが山積みだったが鈴木さんが音頭を取ってくれて
るのだから…と、居酒屋に入った。



疲れていた体にその時間はリフレッシュとなり
居酒屋さんでみんなで料理を突っつきあった。
鈴木氏は唾を飛ばしながらたくさん喋った。
翌日の稽古中、鈴木氏は高熱で戦闘不能となり病院に行った。
誰もが「え…」となった。


病院から戻ってきた鈴木氏が告白をした。
親睦会の夜、鈴木氏は寿里菌に感染したのだ。
だが、彼は、喉が痛いことも咳のたびに重たい痰が出たことも
誰にも言わなかった。いや格好悪くて言えなかった。
彼の体内で何日間もかけて寿里菌が熟成と増殖を繰り返し、
King of 鈴木菌となって成長した。


そして僕たちは感染したことを知った。
稽古場には「R1は!」「ルルは!」「なぜ居酒屋に誘った」と怒号が飛んだ。


        〈稽古場こぼれ話リポート〉